せどりの語源と歴史的変遷を徹底解説|江戸時代から現代の転売ビジネスまで
「せどり」は、安く仕入れて高く売る商売の一種。古書店の専門用語から始まり、現代のネット転売にまで至る長い歴史があります。本記事では、語源に関する複数の説や、江戸時代・戦後・現代といった時代ごとの意味の変遷を詳しく解説します。
目次
- そもそも「せどり」とは?
- 「せどり」の語源:諸説まとめ
- 江戸時代のせどり:古本仲買の担ぎ商
- 戦後〜昭和のせどり:言葉の定着と一般化
- 現代(平成以降)のせどり:インターネットで広がる転売ビジネス
- まとめ:時代とともに変化する「せどり」の姿
- 参考資料
1. そもそも「せどり」とは?
せどりとは、商品を安く仕入れて高く売ることで差益を得る商行為のことです。もともとは古書店業界の専門用語として江戸時代から存在していました。
現代では、CD・DVD・家電・ファッションなども対象となり、インターネットを活用した副業転売ビジネスというイメージで広まっています。
2. 「せどり」の語源:諸説まとめ
「せどり」という言葉の語源は定かではなく、いくつかの説が存在します。
(1)「背取り」説(背表紙から取る)
- 概要:本の背表紙を見て、価値のある本を棚から抜き出す行為を「背取り」と呼んだとする説。
- 指摘:江戸期の和本には背表紙にタイトルがなかったため、実情と合わず「後世の当て字」とも言われます。
(2)「背負って売る」説
- 概要:行商人が荷物を背負って町を回っていた様子に由来する説。
- 指摘:実際に担ぎ商いとして背に包みを担ぐ古本商は存在したものの、直接の語源かは不明。
(3)「糶取り」説(競り売り)
- 概要:「糶(せり)」とは米や物品を競り売りする意。そこから「糶取り=競り落とす行為」として「せどり」が生まれたとの説。
- ポイント:江戸時代の辞典に「糶取」として記載があり、有力な説とされています。
(4)「競取り」説(オークション)
- 概要:古書店のオークションで同業者が競り合う「競取(きょうしゅ・せどり)」が語源とする説。
- 補足:明治期の辞典では「糶取」「競取」の両方が併記されるなど、競り売り起源説が濃厚です。
(5)「瀬取り」説(船舶用語)
- 概要:船から船へ積み荷を移し替える行為「瀬取り」から転じたとする説。
- 否定的見解:江戸期の古本記録で「瀬捉」と書かれた例はあるものの、競り売りを指すもので、船舶用語とは関係がないとされています。
(番外)「畝取り」説
- 概要:「畝り取る(うねりとる)」が訛ったとする説。
- 評価:農業用語としての用例しか確認されず、信憑性は低いと言われています。
3. 江戸時代のせどり:古本仲買の担ぎ商
江戸時代には、すでに「せどり」という古書行商や仲買人が活躍していました。専門店を構えずに本を背負って各書店を巡り、在庫が不足している本を別の店から見つけて提供するというスタイルで報酬を得ていたのです。
- 仲介・取次の役割:同業者の在庫状況を把握し、客の注文を他店で調達する仲立ち業。
- 口銭ビジネス:必要な本を届けて手数料を得る仕組みで、担ぎ商いとして江戸の町を回りました。
戯作者・為永春水や和泉屋庄次郎がせどりで生計を立て、のちに本屋を開業した事例など、江戸後期にはすでに確立した職業だったことがうかがえます。
4. 戦後〜昭和のせどり:言葉の定着と一般化
明治〜大正〜昭和初期まで、「せどり」は古本業界の専門用語でしたが、昭和中期に一般にも広まります。
- 昭和初期の辞典:「背取」「糶取」など複数の漢字表記が紹介され、古書転売行為として解説。
- 小説『せどり男爵数奇譚』の影響:梶山季之の作品(1974年)を通じて「背表紙を見て希少本を探す」イメージが世に広まりました。
このころになると、古書市場でまとめ買いした本から目当ての希少本だけを売り抜ける手法が一般化し、書誌知識と目利きが必要な専門職としての側面が強調されました。
5. 現代(平成以降)のせどり:インターネットで広がる転売ビジネス
平成以降、特に21世紀に入ってからは、ネットを活用した幅広い商品の転売を「せどり」と呼ぶようになります。
- ブックオフの普及:誰もが中古本を安価に大量仕入れできる環境が整ったことで、ネットオークションやAmazonに出品する手法が急増。
- 対象商品の多様化:CDやDVD、ゲーム、家電、服飾品など、利益が出そうな商品はなんでも扱うスタイルが一般化。
- 評価の分かれ:必要な在庫を循環させるビジネスとして歓迎される一方、限定品の買い占め転売など、行き過ぎたケースには批判もあります。
本来は古書を仲立ちする伝統的行為でしたが、現代では「転売ビジネス」全般の代名詞のようになっているのが実情です。
6. まとめ:時代とともに変化する「せどり」の姿
- 江戸時代:古本屋間の仲介・取次をする担ぎ商としての職能。
- 戦後〜昭和:小説などを通じて一般にも知られ、「背表紙から本を見分ける」イメージが普及。
- 現代(平成以降):インターネットの普及で転売ビジネスに幅広く応用され、副業スタイルとしても定着。
語源は「糶取(せりとり)」「競取」「背取り」など諸説ありますが、共通するのは「安く仕入れ、高く売る」点。かつては古書の担ぎ商いから始まり、いまや商品を問わないビジネス手法として拡大し、良くも悪くも大衆化したのが現状といえます。