【カセットテープ復活ブームは嘘?】再評価の歩みと拡散――海外発の再評価と日本の事例
アナログメディア再評価の中で浮上したカセットテープ
近年、音楽メディアとして「カセットテープ」が再び脚光を浴びています。レコード(アナログ盤)の復活ブームが定着する中、次なるレトロメディアとして注目され始めたのがカセットテープでした (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)。実は英国では2012年から販売数が毎年増加し続け、2022年には過去20年間で最高の約19万5千本を売り上げています (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)。米国でも2015年頃から緩やかな成長が見られ、過去7年間で市場規模が約6倍に拡大しました (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)。そして日本国内でも2023年、カセットテープの生産本数が1999年以来はじめて前年を上回り、前年比140%増という急伸を記録しています (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。かつて「時代遅れ」と見なされCDやデジタルに取って代わられたコンパクトカセットが、なぜ今改めて評価され、若い世代まで巻き込んだブームとなっているのでしょうか。本記事では、その発端から拡散の流れ、海外と日本での主な事例、そして現在の市場規模と人気の実態について詳しく探ります。
(英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass) カセットテープは一度は姿を消したものの、今や世界中の音楽ファンが再びコレクションし始めている (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)。写真は様々な種類のコンパクトカセット。各世代の音楽リスナーにとって、手のひらサイズで集めやすいカセットは「所有する喜び」を与えるコレクターズアイテムとしての魅力も取り戻している (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)。
海外で始まったカセットテープ再評価の兆し
カセットテープ復活の兆候はまず海外で現れました。2010年代前半、インディーズ音楽シーンを中心に限定版カセットのリリースが増え始め、2013年にはイギリス・ロンドンでカセットテープの価値を見直すイベント「Cassette Store Day」が発足します (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)。このイベントはレコードの祭典「Record Store Day」にヒントを得た国際的な催しで、世界各国のインディーズレーベルやショップが限定カセットを発売する年次行事として広がりました ( Cassette sales increased by 74% in 2016) ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。Cassette Store Dayは欧米やアジアにも波及し、日本でも2016年から公式に開催されるようになります (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)。同じ頃、アーティストたちによるカセット限定リリースが目立ち始め、カセットテープの再評価が世界レベルで進んでいることが感じられるようになりました (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)。音楽好きの間で「デジタルにはないアナログの良さ」が語られ始め、細々と続いていたカセットテープ文化が再び息を吹き返し始めたのです。
実際、2014年にはカセットテープが重要な役割を果たす映画や音楽作品が大きな話題となり、一般層にもその存在感を印象づけました。代表例がMarvel映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)です。同作で主人公が愛用するカセット式ウォークマンとサウンドトラック『Awesome Mix Vol.1』は世界的人気を博し、このサントラは実際にカセットテープでも発売されて近年まれに見る売上を記録しました (‘Guardians Of The Galaxy’ Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012 – ComicBook.com)。同じく80年代が舞台のNetflixドラマ『ストレンジャー・シングス』(2016年~)でも劇中でカセットテープが小道具として登場し、作品公式のカセット版サウンドトラックが販売されています (‘Guardians Of The Galaxy’ Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012 – ComicBook.com)。こうしたポップカルチャーでの扱われ方により、「懐かしいカセット」を手に取ってみようという若者が増えたとされています (‘Guardians Of The Galaxy’ Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012 – ComicBook.com)。実際、米国における2017年のカセットテープ販売数は前年から74%も急増し12万9千本に達しましたが、この躍進には映画『ガーディアンズ~』の影響が大きかったと分析されています (‘Guardians Of The Galaxy’ Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012 – ComicBook.com)。
また、2015~2016年頃になると、大物アーティストまでもが最新アルバムをカセットでリリースする動きが見られました。例えばカナダ出身の人気歌手ジャスティン・ビーバーは、2015年発売のアルバム『Purpose』を限定カセット盤でも投入し ( Cassette sales increased by 74% in 2016)、約1,000本を売り上げています ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。同時期にR&B歌手ザ・ウィークエンドも『Beauty Behind The Madness』のカセット版を発売し、こちらも約1,000本を販売しました ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。一見小規模に思えますが、ゼロに等しかったカセット売上が久々に4桁単位に達した意義は大きく、メジャーレーベルがカセットというフォーマットに再び注目し始めた象徴と言えます。さらに往年の名盤もカセットで復刻されはじめ、エミネムの『The Slim Shady LP』カセット再発は2016年に3,000本、プリンスの『パープル・レイン』再発カセットも2,000本を超えるヒットとなりました ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。こうした動きを受けて、米レコード協会(RIAA)も実に数十年ぶりにカセットの販売トラッキング再開に動き出しています ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。まさに2010年代半ば、欧米でカセットテープは「ひそかな復権」を遂げつつあったのです。
懐かしさとSNSが後押しした拡散の流れ
カセットテープ復活の背景には、ノスタルジーだけでなくSNSやメディアでの拡散が大きな役割を果たしました。近年、多くのニュース媒体が「カセットテープ復活」を面白い現象として取り上げ、毎年のように特集記事を組んでいます。例えば米PBSやMarketWatchなどもこぞってカセットブームを報じ、レトロなガジェット好きの関心を集めました (‘Guardians Of The Galaxy’ Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012 – ComicBook.com)。またInstagramやTwitterでは、若者が昔風のウォークマンやお気に入りのカセットコレクションを写真付きで投稿する例が増加。TikTokでは「#昭和レトロ」「#昭和に憧れる」といったハッシュタグが定着し、日本のZ世代が80年代~90年代の文化やアイテムを新鮮なものとして楽しむムーブメントが起きています (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)。カセットテープもそうしたレトロ可愛いアイテムの一つとして位置づけられ、デザイン性の高さや手のひらサイズの可愛らしさがSNS映えすることからブームを後押ししました (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。実際、現代の若者にとってカセットは「不便だけれど新鮮」な体験と映るようです。スマホでワンタッチ再生が当たり前の世代にとって、テープを入れ替え巻き戻し…という手間は逆に儀式的な面白さとなり (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)、「スキップできないからアルバムを通してじっくり聴ける」といった従来とは違う音楽の楽しみ方を発見するきっかけにもなっています (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。
口コミの広がりも見逃せません。もともとカセット世代ではなかった若者たちがカセット文化を知る入口となったのは、影響力のあるアーティストのSNS投稿や音楽雑誌の記事ではないかと指摘されています (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)。実際、海外の人気バンドが「カセット限定リリース決定!」とSNSで発信すればファンが反応し、それがニュースとして拡散される、といった流れが定着しました。インディーズバンドにとっても、カセットの限定版はグッズとして魅力的であり、Bandcampなどを通じてファンとのコミュニケーションツールにもなっています。こうしたアーティスト発信とファンのシェアによって、「最新曲をカセットで聴いてみる」という現象が徐々に市民権を得ていきました。
またコレクター心理も拡散の原動力です。ストリーミング配信では手元に形が残りませんが、カセットテープなら小さな箱にアートワーク付きで収まり、コレクションする喜びがあります。イギリスのレコード店主は「ストリーミングのコレクターにはなれないけれど、カセットは小さいから集めやすい」と述べ (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)、若い世代ほどその収集欲に火がついているといいます (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)。実際、英国で2022年に売れたカセットのトップ20はすべてその年の新譜で占められており、新作アルバムの販売構成比においてカセットが無視できない存在になっているとの指摘もあります (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)。熱心なファンはお気に入りアーティストのアナログ盤やカセットを記念に購入し、SNSで自慢する――そうした循環がブームを下支えしているのです。
海外の主要事例:アーティストとブランドが牽引
このカセット再評価ブームを牽引した海外の事例としては、まず名だたるアーティストの参加が挙げられます。前述のジャスティン・ビーバーやザ・ウィークエンドのほかにも、米国では近年多くの人気歌手がアルバムのカセット版をリリースしました。例えばテイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュも自らのアルバムをカセットで限定発売し、数千~1万本単位の売上を記録しています(※ビリー・アイリッシュのデビューアルバムは英国で1万本以上のカセット売上を達成) (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass) (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。イギリスではアークティック・モンキーズやハリー・スタイルズといった若手~中堅アーティストもカセット盤を用意し、ファンにとってはCDやレコードと並ぶコレクターズアイテムになりました。こうした有名アーティストの動きにより、「カセットテープは懐古趣味のグッズではなく現役の音楽メディアだ」という認識が広まったのです。
ムーブメントとして見逃せないのがCassette Store Dayです。先述のとおり2013年に英国で始まったこのイベントは、毎年10月に世界各地のインディーズレーベルやショップが協力して行われ、カセット限定リリースやライブイベントで盛り上がります ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。2016年には日本を含む複数カ国で同日開催される国際イベントに発展し、カセット文化復興の象徴的な存在となりました (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)。Cassette Store Dayの開催によって「今年もカセットが熱い!」といった記事が音楽メディアで毎年組まれるため、ブームの鮮度が保たれる効果も指摘されています (The Continuous Cassette Comeback – The Museum of Portable Sound) ( Cassette sales increased by 74% in 2016)。
ハード面では、アメリカ・ミズーリ州のナショナル・オーディオ社(NAC)といった老舗企業がブームを支えています。NACは米国内最後のカセットテープ工場とも称され、近年は空前の受注増に湧きました。同社は2014年に1,000万本以上のテープを生産し、これは1969年の創業以来最高の数字だったと報じられています (Audio Cassettes’ Unlikely Revival – Dollars & Sense – Blogs@Baruch)。需要に応えるため長らく製造が止まっていた磁気テープの原料生産を再開するなど、供給面でも復活ブームに対応する動きがありました (Cassette tape – Wikipedia)。またフランスのスタートアップWe Are Rewindや香港発のNINM Labといった企業が、Bluetooth送受信に対応した新時代の携帯カセットプレーヤーを開発するなど、ハードウェアの新製品も登場しています。これらは「現代に蘇ったウォークマン」としてガジェット好きの関心を集め、海外メディアでも「カセット再生機器が進化している」と話題になりました (カセット再生でチル~“ビッグラジカセ”と“ウォークマン的なヤツ”が …)。
日本国内の動向:昭和レトロと新世代カルチャーの融合
海外発のカセット人気再燃は、少し遅れて日本にも波及しました。2016年頃、アメリカでのブーム再燃(ジャスティン・ビーバーら人気歌手によるカセット発売)が伝えられると (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)、日本の音楽ファンや業界も「次はカセットかもしれない」と注目し始めます。ちょうどその年からCassette Store Day Japanが公式スタートし、日本でもインディーズを中心にカセット限定作品の発表が増えていきました (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)。米国で火が付いた流行は少し遅れて日本市場でも盛り上がる――この法則をいち早く嗅ぎ取った国内企業もあります。雑貨メーカーのドウシシャは2017年、80年代風デザインの小型ラジカセ「SCR-B2」を発売し、続いて2022年末にはBluetoothやUSBメモリ再生機能を備えた「SCR-B7」を投入しました (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)。いずれも昭和レトロな外観に現代の機能を盛り込んだ意欲作で、「俺たちの青春ラジカセ」というキャッチコピーとともにオーディオファンの話題をさらいました (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)。このように、日本企業もカセットブームの兆しに合わせ商品開発を進め、市場活性化に一役買っています。
日本のアーティストたちもこの流れに呼応しました。2010年代後半からはカセットテープ音源を発表するミュージシャンが増え、例えばロックバンドのくるりは2018年にシングル曲をカセットテープでリリースしています (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)。他にもインディーズバンドやアイドルがグッズ的にカセットを販売したり、大御所アーティストが記念企画でカセット盤を復刻した例も出てきました。近年では邦楽シーンでもレコード復活が定着しつつありますが、カセットもまた音楽コレクター心をくすぐるフォーマットとして注目されています (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)。特に若い世代の中には「レコードは高価で場所を取るが、カセットなら手頃で気軽に集められる」という声もあり、実際に都内の一部レコードショップではカセットテープ専門コーナーが常設されるまでになりました (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。東京・神保町の老舗店「ジャムコーチョータクト」(Jimbocho Tacto)では10年来カセットを扱っていますが、ここ2~3年で需要が急増し若者の来店が増えたといいます (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan) (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)。「若いお客様が昭和70~80年代の音楽や文化に魅力を感じている。レコードやカセットで昔の作品に触れるのが新鮮な体験になっているようだ」という店員の証言もあり (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)、昭和レトロブームとカセット人気がリンクしている様子がうかがえます。
(Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan) 若い世代を含めた愛好家たちは、自宅に往年のカセットテープをずらりと並べて楽しんでいる (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)。写真はとあるカセットコレクターの棚に並ぶ1980年代~90年代のアルバム群とラジカセ。日本では2015年頃に初のカセットテープ専門店「waltz(ワルツ)」(東京・中目黒)がオープンし話題になりましたが、その店主によれば「開店から4年で数百件の取材を受けた」ほどメディアの関心も高かったといいます (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)。カセットテープという文化は単なる懐古ではなく、様々な年代の人々が面白がる多面的なカルチャーとして盛り上がっているのです (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)。
ハードウェア面でも日本企業の動きが見られます。音響機器大手の東芝はブランド創立50周年となる2023年、オーディオブランド「Aurex(オーレックス)」の名の下、カセットテープ再生対応の新製品群を発表しました (AUREXブランド50周年を節目に、スローガン・ロゴを刷新 2種類の …)。手のひらサイズのワイヤレスカセットプレーヤー「Walky」シリーズや、カセットデッキ内蔵のBluetoothスピーカーなど、令和の時代に新作カセットプレーヤーが登場したことは大きな注目を集めました (AUREXブランド50周年を節目に、スローガン・ロゴを刷新 2種類の …)。また磁気メディアメーカーのMaxell(マクセル)は細々とカセットの国内生産を続けてきましたが、「2012年にカセット誕生50周年を祝ったことが若者の関心を呼び起こし、カセットブーム再燃のきっかけになった」と社内で振り返っています (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)。マクセル広報によれば「若い人たちが『レトロでかっこいい』と興味を持ち、海外のミュージシャンが出したカセットを聴いた若者が『編集できないからスリリング』と感じてくれた」ことが復活の追い風になったといいます (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)。事実、日本の若手アーティストの中には「リスナーに曲順通り聴いてほしい」という思いからあえてカセットで作品を発表するケースも出てきており、デジタル全盛だからこそ「あえて不便なメディア」で作品と向き合ってもらうという新しい価値観が芽生えています (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)。
復活ブームの現在:市場規模と人気の実態
このように盛り上がりを見せるカセットテープですが、その市場規模はどの程度のものなのでしょうか。まず世界的にはニッチだが確実に成長している市場と位置付けられます。英米ともに販売本数はストリーミング隆盛の中で微増を積み重ね、イギリスでは2012年の3,823本から2022年には約195,000本と実に50倍以上に拡大しました (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)。米国も2015年頃には数万本規模だったものが2022年には20万~30万本台に達したと推定され(※正式な集計によると2016年時点で12.9万本 ( Cassette sales increased by 74% in 2016))、年平均で二桁成長を続けています。日本市場は欧米に比べると絶対数は小さいものの、メーカー出荷ベースで見ると2022年まで減少の一途だった生産が2023年に転じて増加し、24年ぶりに前年超えとなりました (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。流通関係者の話では「まだ演歌のカラオケ用テープなどが細々と残っている程度」から、若者向け音楽の新譜カセットがじわじわ存在感を増す構図に変わってきたとのことです (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。実際、2023年時点で国内主要CDショップ(タワーレコード新宿店など)にはカセット専用棚が設置され、新品のカセットプレーヤーも家電量販店で販売され始めています。かつての主役だったカセットテープは、決して大量生産大量消費の存在には戻っていませんが、熱心なファン層に支えられた復活組として着実に市民権を取り戻しつつあると言えるでしょう。
もっとも、このブームをどう評価するかについては意見が分かれます。音楽ジャーナリストの中には「レコード復活はファッション的興味による一過性のものだし、カセットもマニアの域を出ないだろう」という冷静な見方もあります (カセットテープが「再評価」されているって本当? | アゴラ 言論プラットフォーム)。確かに音質面ではデジタルに劣り、扱いも面倒なテープメディアが今後も大衆的な支持を得続けるかは未知数です。しかし、音楽の聴かれ方が極端に効率化・フロー化した時代だからこそ、あえて不便で手間のかかるメディアに価値を見出す動きが生まれています (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)。アーティスト側もフィジカルメディアで作品世界を届けたいという意図からカセットを採用するケースが増えており (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)、「モノとしての音楽」に新たな命が吹き込まれているのは間違いありません。レコード、カセットに続くアナログ復権の潮流がどこまで続くのか、今後の動向に注目です。
参考資料
【4】スタジオパーソル「音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏」(2023年4月13日) (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル) (音楽配信主流の時代に、なぜラジカセ? 担当者に聞く開発の舞台裏 | スタジオパーソル)
【12】The Music Network “Cassette sales increased by 74% in 2016” (2017年1月23日) ( Cassette sales increased by 74% in 2016) ( Cassette sales increased by 74% in 2016)
【15】PR TIMES「カセットテープの祭典『Cassette Week 2024』開催決定!」(2024年8月2日) (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース) (カセットテープの祭典「Cassette Week 2024」10月第3週に開催決定! | 株式会社Side-Bクリエーションズのプレスリリース)
【23】VICE “Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan” (2021年2月10日) (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan) (Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan)
【34】マイネ王「カセットテープが売れるのは『懐かしさ』からではない――有名アーティストも注目する魅力とは」(2019年6月18日) (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王) (カセットテープが売れるのは「懐かしさ」からではない――有名アーティストも注目する魅力とは | スタッフブログ | マイネ王)
【37】ComicBook.com “Guardians Of The Galaxy Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012” (2018年1月6日) (‘Guardians Of The Galaxy’ Helped Drive Best Cassette Tape Sales Year Since 2012 – ComicBook.com)
【38】amass「英国 カセットテープの売上が10年連続で増加」(2023年4月20日) (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass) (英国 カセットテープの売上が10年連続で増加 2022年の売り上げは約20年ぶりの高水準に – amass)
【43】VICE (Hanako Montgomery記者) “Cassette Tapes Are Making a Comeback in Japan”よりマクセル広報の発言