「新古書店」の歴史 1970年代から現代までの進化と変遷

 

1970〜80年代:従来型古本屋の状況と業界の土壌

1970年代から80年代にかけて、日本の古本屋(古書店)業界は主に個人経営の小規模店舗が中心でした。古書店は昔ながらの街の本屋や神田神保町のような古書街に多く、専門分野ごとにマニアや研究者を惹きつける品揃えをするのが一般的でした (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。店主は書籍の希少性や内容的価値を自ら判断して一点ずつ価格を付けており、この目利きには長年の経験が必要とされていました (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。そのため、古書の価格決定や買取はブラックボックス化しがちで、業界ではチェーン展開は難しいと考えられていたのです (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。

当時の古書店は、狭い店内に所狭しと本が積まれ、希少本や学術書・文学の初版本などコレクター向けの商品を扱うことが良しとされ、一般大衆向けの最新の本よりも絶版本や専門書の売買に価値がおかれていました。
また販売方法も、店舗販売のほかに目録(カタログ)を郵送して通販する形態が取られることもありました(これは現在でも続いています)。1970年代後半には出版点数や発行部数が増大したため、古本の流通量も次第に増えていき、1980年代には大学街の周辺などに学生向けの安価な古本屋も多数存在していました。1980年代末まで出版市場は拡大を続け、書籍・雑誌の販売額は1996〜97年にピークを迎えます ( 出版流通委員会2018 )。この大量の新刊本の供給増加は、後に中古本として流通する潜在的な在庫を蓄積することになりました。

一方で1980年代には、古本ブームとも言える動きも見られました。全国の古書店が在庫豊富な古本を背景に競って支店を出した例もあり、映画のパンフレットなど一部のサブカル系古書が高値で取引され人気が急上昇した時期もありました (日本の古本屋 / (シリーズ古書の世界第1回) 変っていく古書店のかたち1)。しかしこの流れは長く続かず、後述するように1990年代に入って台頭する新古書店の存在によって一気に終息していきます (日本の古本屋 / (シリーズ古書の世界第1回) 変っていく古書店のかたち1)。

1990年代:新古書店(ブックオフ)の登場とビジネスモデル革命

1990年代に入り、中古書店業界に大きな転機が訪れました。1990年5月、神奈川県相模原市にブックオフの1号店が開店し、これが「新古書店」と呼ばれる新しいタイプの中古書店の始まりでした ( 出版流通委員会2018 )。ブックオフは、それまでの伝統的な古書店とは大きく異なるビジネスモデルを採用しました。ドラッグストアチェーンのマツモトキヨシを参考にしたという広く明るい店舗、整然とした棚配置、誰もが入りやすいカジュアルな雰囲気は、それまでの「薄暗く入りづらい古本屋」のイメージを刷新しました ( 出版流通委員会2018 ) (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT)。
その店構えには新品の本を扱う書店と見紛う清潔さがあり、古書店特有のホコリ臭さを感じさせませんでした。こうした明るい大型店で、ブックオフは専門的・マニアックな稀少本ではなく「普通の本」を大量に取り扱ったのです (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。例えば文庫本や新書、ベストセラー小説、実用書、コミックなど、一般読者に親しみのある中古本を中心に品揃えしました ( 出版流通委員会2018 )。

ブックオフ最大の革新はその価格メカニズムオペレーションにありました。販売価格は基本的に定価の半額という分かりやすい値付けを行い、一定期間売れ残った本は大胆に100円均一に値下げしました ( 出版流通委員会2018 )。さらに買取についても、ジャンルごとに一冊あたりの基準買取価格(例えば単行本○円、文庫本○円など)を明示し、店頭に掲示しました。従来は店主の裁量で決まって不透明だった売値・買値をオープンにすることで、顧客は安心して売買できるようになりました ( 出版流通委員会2018 )。買取査定もマニュアル化され、「古本屋稼業は修行十年」と言われた熟練の目利きがなくともパート・アルバイト店員で対応可能になったのです ( 出版流通委員会2018 )。実際ブックオフでは、書籍の中身ではなく外観の状態によって価格を細かくランク分けする方法を採用し、誰でも一定水準の査定ができるよう工夫しました (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。シールによる簡易な在庫管理と相まって、チェーン全店で均一なサービスを実現したのです (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。

このようにブックオフは「安く仕入れて安く大量に売る」モデルで、一般消費者から幅広く本を買い取り、次の読者へ低価格で提供する中古書籍の流通網を組織的に作り上げました。発売間もない新刊書であっても誰かが売りに来れば即座に中古品として店頭に並べ、新刊書市場と中古書市場の垣根を曖昧にすることで「新古書」という新ジャンルを開拓したとも評されています (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT)。これにより、定価販売が原則の日本の出版流通システムの盲点を突いたビジネスとしてブックオフは急成長を遂げます (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT) (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT)。一方で、発売直後の書籍がブックオフに並ぶ状況は出版社・著者にとって新刊の売上機会を奪われる懸念でもあり、出版業界との摩擦も生じました (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT)。
1990年代末から2000年代初頭にかけて、一部の著名作家や出版社は中古書の台頭により出版社・著者への利益還元がないことを問題視し、新古書店に対する何らかの制度(例えば中古本販売から著作者へ分配する「古本著作権料」制度など)の導入を主張する動きもありました。しかし実際には法的規制は行われず、ブックオフはビジネスモデルを継続しています。

ブックオフの登場は、読者の中古本に対する価値観を一変させました。それまで古本購入といえば「古書マニア」か「節約志向」の人というイメージも一部にありましたが、ブックオフは誰でも気軽に利用できる店舗作りで、中古本であっても抵抗なく買える環境を整えたのです。「読み終えた本はブックオフへ売りに出し、また別の中古本を買う」というサイクルが浸透し、多くの消費者が本をリユース商品として捉えるようになりました。新品を定価で買って手元に残すのではなく、安価に手に入れて読み終えたら手放すという消費行動は、経済不況下の90年代に合理的な選択肢として支持された側面もあります。実際、1990年代半ばは日本経済がバブル崩壊後の不況期でしたが、その時期にブックオフは店舗網を急拡大し、多くの地域で「一番大きな本屋がブックオフ」という状況を作り出しました ( 出版流通委員会2018 )。不況下で安価な中古本ニーズが高まったことも、ブックオフの成長を後押しした要因です。

こうしてブックオフはフランチャイズ展開も活用しながら全国チェーンへと成長していきます。創業からわずか数年で店舗数を増やし、2006年3月時点では直営291店・FC563店の合計854店舗に達していました (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。これは中古書店チェーンとして当時群を抜く規模であり、ブックオフ単体で中古書籍販売市場の6割超のシェアを占めるまでになっていました (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。中古本市場におけるブックオフの独走的な成長に刺激され、90年代後半には異業種からの参入も相次ぎましたが、在庫回転率の管理や十分な集客が難しく、多くは撤退していったとされています (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。ブックオフ以外で継続的に展開したチェーンとしては、例えば株式会社テイツーの「古本市場(ふるほんいちば)」や、漫画・同人誌・玩具に特化した「まんだらけ」(1987年創業)などが挙げられます。古本市場は主に近畿・中四国エリアを中心に店舗展開し、ゲームソフトやCDの中古も扱う総合リユース店として成長しました。また「まんだらけ」はコアな漫画・アニメ愛好家向けに希少価値のある古漫画や同人誌を扱う専門チェーンとして成功しています。こうした競合もありましたが、一般書籍分野ではブックオフの存在感が突出していました。

2000年代:中古本市場の拡大とオンライン販売の影響

2000年代に入ると、新古書店チェーンの台頭によって中古本市場は本格的に拡大期を迎えます。ブックオフは国内各地に店舗網を広げ続け、消費者も「本は新品でなくても安く買える」という認識が定着しました。出版不況と言われた時期にも中古本売買は堅調で、2000年代半ばにはブックオフは依然として既存店売上も含め成長基調にありました (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート | ポーター賞)。一方、新刊書店(新品書籍を扱う書店)は大型店の台頭と売上減少に苦しみ、小規模書店の閉店が相次いでいました。出版指標年報によれば書籍の推定販売金額は1996年をピークに減少に転じており ( 出版流通委員会2018 )、読者の購買行動にも変化が見られ始めます。こうした中で、中古本市場は新刊市場の落ち込みを補完するように存在感を増しました。読者にとってはベストセラーも少し待てば中古で安価に手に入るため、新刊を発売直後に買わずブックオフで探すといった行動も一般化しました。また、ブックオフで本を売れば新刊書店で新品を買うより安く済むため、家計が厳しい若年層などにも中古本購入が浸透しました。

2000年代には、インターネットの普及が中古書店業界にさらなる大きな変化をもたらします (業界レポート: 古本店・古本チェーン店 – バフェット・コードマガジン)。まず、オンラインでの中古本販売が活発化しました。1990年代後半から2000年代初頭にかけて、インターネットオークションサイトの登場(1999年にヤフーオークション開始)や、Amazonマーケットプレイス(2001年米国開始、2002年日本開始)によって、個人がインターネット上で中古本を売買できるようになりました。これにより、希少本を探して全国の古書店を巡らなくても、ネット検索で欲しい中古本が見つかり通販で購入できる時代が到来します。実際、古書店組合の全国ネットワークである「日本の古本屋」サイトも2001年に開設され、全国の古書店在庫を横断検索・注文できるようになりました。専門書や絶版本を扱う従来型の古書店も、このようなオンライン市場に参入し、店舗を持たず無店舗の目録販売(ネット通販)に切り替える動きが進みます (日本の古本屋 / (シリーズ古書の世界第1回) 変っていく古書店のかたち1)。前述のようにブックオフのチェーン展開によって一時は閉店を余儀なくされた専門古書店も、ネット販売の普及に伴い再び商機を得て、生き残りを図ったケースが少なくありません。実際、多くの伝統的古書店が店舗営業を縮小し、インターネットや古書市での販売を主力に据えるようになりました (日本の古本屋 / (シリーズ古書の世界第1回) 変っていく古書店のかたち1)。

一方、ブックオフ自身もオンライン展開を開始します。2000年代前半には公式通販サイト「eブックオフ」(後のブックオフオンライン)を立ち上げ、店舗在庫をネット上で販売・買取できるサービスを提供しました。これは、遠方に店舗がない地域の顧客や、店舗に出向かなくても本を売りたい顧客を取り込む戦略でした。しかしブックオフの場合、強みである大量在庫の中から「掘り出し物を店頭で探す楽しみ」がユーザー動機になっている面もあり、オンライン専業の他社に比べるとネット対応はやや限定的でした。むしろ、ネットオークションや個人売買の浸透によって、消費者の中古本との関わり方が広がった影響の方が大きいでしょう。2000年代後半には、「読みたい本をできるだけ安く手に入れるために、ネットオークションやAmazonマーケットプレイスで中古を探す」という行動も一般化しました。例えば品切れになった新刊や昔の漫画の全巻セットなどは、ブックオフ店頭よりネット上で探す方が効率的な場合も増えました。その結果、ブックオフのような実店舗チェーンと、ネット上のCtoC市場・専門店通販とが中古本市場を二分しつつ、それぞれ補完的な役割を果たすようになります。

中古本市場の規模は、こうした要因に支えられて拡大を続けました。明確な統計が整備され始めたのは近年ですが、参考までに2009年時点で国内中古書籍販売額は推定約670億円と見積もられており、その約6割をブックオフが占めていたとのデータがあります (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート)。この規模は、新刊書籍市場(2007年で約2兆0853億円 (出版市場の最新動向2008 – 日本印刷技術協会))と比べれば一割にも満たないものの、無視できない市場へ成長したことを示しています。環境省のリユース市場調査によれば、2014年から2018年にかけても中古本市場は拡大傾向で推移しています(例:2014年の中古本販売額1806億円→2018年2420億円〈書籍以外のメディア含む〉※環境省報告 ([PDF] 平成 30 年度 リユース市場規模調査 報告書 – 環境省))。このように2000年代を通じて、中古本ビジネスは新刊市場の落ち込みを背景に拡大し続けました。

しかし、2000年代後半になると中古本業界にも新たな課題が見え始めます。それは、後述する電子書籍の台頭活字離れの兆候です。すでに1990年代から「若者の読書離れ」は指摘されていましたが (「若者の読書離れ」という “常識”の構成と受容 – J-Stage)、インターネットや携帯電話の普及により、若年層を中心に紙の本を読む時間が減少し始めました。また、多様な娯楽の増加や図書館の活用、レンタルコミック・漫画喫茶の普及など、本を「所有する」のではなく「一時的に読めればよい」という風潮も出てきます。インターネットの普及により、それまで書籍や雑誌でしか得られなかった情報がネット上でキャッチアップできるようにもなりました。中古本市場は安価とはいえ「所有」を前提とするため、そうした消費行動の変化は長期的には中古本の需要にも影響を及ぼし始めました。

2010年代:電子書籍と消費者行動の変化による市場の再編

2010年代に入ると、中古本業界は大きな転換期を迎えます。最大の要因の一つが電子書籍の普及です。日本でも2010年頃から電子書籍リーダーやスマートフォンが広まり、特に漫画分野で電子配信が急成長しました。紙の出版市場は1996-97年をピークに縮小を続け、2021年には書籍と雑誌を合わせた販売額が1兆6742億円程度と、ピーク時の8割以下に落ち込んでいます (平和紙業株式会社「作家買い」 – 活版印刷研究所)。一方で電子コミック市場は2021年に5112億円(前年比106%)と年々拡大を続け、紙のコミック市場を上回る規模に達しました (閑話休題 ―書籍の行方― – 平和紙業株式会社 – 活版印刷研究所)。このように読書のデジタルシフトが進むと、紙の本の流通量自体が減少します。新刊が売れなければ中古市場への供給も先細りとなり、中古本市場も影響を受けざるを得ません。実際、中古本最大手のブックオフでも2010年代半ば以降、主力である書籍販売が伸び悩み、コミック売上は横ばい~減少傾向へと転じました (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT)。2016年3月期にはブックオフコーポレーションは上場以来初の営業赤字に陥り、その要因は「書籍そのものの市場縮小」にあると分析されています (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT) (ブックオフのビジネスモデルはなぜ「破綻寸前」なのか |ビジネス+IT)。

また、2010年代には消費者同士の直接取引(CtoC)を可能にするフリマアプリの登場も見逃せません。2013年にサービス開始した「メルカリ」は爆発的な人気を博し、誰でもスマホで簡単に不要品を売買できるプラットフォームとして定着しました。これにより中古本も個人間で直接売買されるケースが増え、従来はブックオフなど店舗に売却されていた本が、消費者同士でやり取りされる流通経路が拡大しました。特に新しい本や人気本ほど個人売買で高値がつきやすく、ブックオフ等による大量一括安値買取より手間をかけてでも高く売りたいという利用者も現れました。結果として、中古本チェーンは仕入れ(買取)競争でも新たな挑戦に直面します。ブックオフは買取価格の見直しや会員向けクーポン発行などで個人からの買取確保に努めましたが、消費者の選択肢が増えたことで、従来ほど容易に在庫を集められなくなった側面があります。

このような市場環境の変化に対応するため、ブックオフをはじめとする大手は事業モデルの再構築を図りました。ブックオフは書籍メインの店舗から、衣料品・家電・ホビー用品なども扱う総合リユース店へ業態を転換する戦略を進め、2010年代後半には「BOOKOFF SUPER BAZAAR(ブックオフスーパーバザー)」と銘打った大型複合店を各地に展開しました。また店舗数もピーク時からやや減少させ、不採算の小型店や駅前店を整理しつつ、大型店やフランチャイズへの転換で効率化を図っています。さらに近年ではトレーディングカード専門店の展開や富裕層向け業態(高級ブランド品のリユースなど)にも乗り出し、中古本以外の柱を育成することで企業全体としての成長を目指しています (ビジネスモデルYOU 中古本・書籍 | ブックオフ公式オンラインストア)。
このような多角化の結果、ブックオフグループの売上高に占める書籍の割合は徐々に低下しつつありますが、それでも古本は依然グループの核となる商材であり続けています。2023年5月期のブックオフグループ売上高は約1018億円に達し、その再成長の原動力の一つは古本を含むリユース事業の需要拡大です。

消費者行動の面では、この時期に本離れがより顕著になりました。総務省の調査などによれば、1か月に一冊も本を読まない人の割合が年々増加し、特に若年層で読書習慣が希薄化しています(2019年時点で約半数が月に0冊というデータもあります)。スマートフォンで動画やSNSが手軽に楽しめる中、時間をかけて本を読む人が減少傾向にあるのです。この「読書離れ」は新刊市場の縮小だけでなく、中古本市場にも長期的には逆風となります。また、高齢化の進展も中古本ビジネスに影響しています。かつて大量の本を収集していた団塊世代が高齢化し蔵書を手放すケースが増える一方で、次世代の若者はそもそも大量の本を所有しない傾向があるため、今後古本の供給過多と需要不足が進行する可能性も指摘されています。

もっとも、中古本への価値観はこの時代、大きくプラスにも変化しました。それはリユースやエコへの意識の高まりです。使えるものを捨てずに再利用する文化が浸透し、中古品購入に抵抗を感じない人が増えました。中古本も「安いから仕方なく買う」という消極的選択ではなく、「環境に優しく、賢い消費」という前向きな価値付けがされるようになっています。ブックオフグループ自身、「本を捨てればゴミだが、売れば次の人に読んでもらえる資源だ」というメッセージを発信し、循環型社会への貢献をアピールしています。また、新刊書店が減少して買いたい本が手に入りにくい地域では、中古本屋が実質的に図書の供給源となっているケースもあります。こうした社会的役割の変化もあり、中古書店業界は単なる商売以上の意義を持つ存在となりつつあります (ブックオフコーポレーション株式会社 | 受賞企業・事業レポート)。

中古書店市場の規模推移と今後の展望

上述のような変遷を経て、日本の中古書店市場規模はこの数十年で大きく変動してきました。新古書店が登場する以前、中古本の流通は限定的でしたが、2000年代には数百億円規模に拡大し、2023年時点で中古書籍の市場規模は約948億円に達しています (「〖本・CD・ゲーム等〗中古メディア売上ランキング2024(2023年度)」 :: リユース経済新聞)。これは前年度比でわずか0.2%減とほぼ横ばいで推移しており、紙の出版市場が縮小する中では健闘していると言えます (「〖本・CD・ゲーム等〗中古メディア売上ランキング2024(2023年度)」 :: リユース経済新聞)。他方、同じ中古メディアでもゲームソフトやCD等は前年比+7.1%と成長しており (「〖本・CD・ゲーム等〗中古メディア売上ランキング2024(2023年度)」 :: リユース経済新聞)、中古本市場はメディア別ではやや停滞気味です。中古本市場の成長が頭打ちになりつつある背景として、前述した電子書籍や漫画アプリの普及による影響が挙げられます (「〖本・CD・ゲーム等〗中古メディア売上ランキング2024(2023年度)」 :: リユース経済新聞)。コロナ禍を経て人々の外出機会が増えれば、在宅で本を読む需要が減るといった環境要因もあり、中古本の需要は一進一退の状況です (「〖本・CD・ゲーム等〗中古メディア売上ランキング2024(2023年度)」 :: リユース経済新聞)。

中古本市場の今後を展望すると、まず流通チャネルのさらなる多様化が考えられます。大手チェーン(ブックオフ等)、専門古書店、オンラインマーケットプレイス(Amazonやメルカリ等)が共存し、それぞれが得意分野でサービスを充実させていくでしょう。例えば最新刊に近い一般書や大量の娯楽本は引き続きブックオフなどチェーン店が集約し、希少本や専門書は古書店・ネットがきめ細かく供給するといった棲み分けです。また、消費者側も「読む」だけでなく「聴く」(オーディオブック)や「観る」(動画解説など)といった他メディアへの嗜好変化が進んでおり、本そのものの需要減少に業界全体で対峙する必要があります。中古書店各社は、単に本を安く売るだけでなく、店舗でのイベント開催やカフェ併設など体験価値の提供によって、本離れする若者を呼び戻す試みも始めています。例えばブックオフは一部店舗で読書スペースや珈琲サービスを設け、「本と出会う場」としての魅力を打ち出しています。また、大手による業界再編の可能性もあります。近年ではハードオフコーポレーション(リユース業大手)がフランチャイズでブックオフ店舗を運営する例もあり、リユース業界全体での連携強化が進んでいます。

総じて、日本における新古書店の歴史は、1970年代までの伝統的な古書店文化から、1990年代のブックオフ登場による市場拡大とビジネスモデル革命、そして2000〜2010年代のデジタル時代への適応という、激動の変遷を遂げてきました。かつて「古本屋」と言えば専門的な趣味の世界でしたが、いまや全国チェーン店から個人間取引アプリまで誰もが利用できる身近な存在となっています。中古本市場は、新刊市場やデジタル市場と影響し合いながら規模を変えてきましたが、「本を次の読者につなぐ」という文化的・経済的役割は一貫して存在します。今後も消費者のニーズ変化に対応しつつ、新古書店はリユース文化の一翼を担い続けるでしょう。そしてその歴史は、日本人の読書環境や出版流通システムの変化と切り離せないものとして、これからも進化を続けていくと考えられます。 ( 出版流通委員会2018 ) (「〖本・CD・ゲーム等〗中古メディア売上ランキング2024(2023年度)」 :: リユース経済新聞)


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